最近はリノベーションブームなどというけれど、出来上がったものを 見てみると、ヴィンテージな風を吹かせただけの、ほぼ新築ばりに高予算で他人任せなプロジェクトも多い。それに比べて、「自分たちで 作ろう」というセルフビルドのプロジェクトは、クライアント、建築家、 大工や使い手の境目が曖昧で、皆で一緒に汗をかく。そんな感じで 出来上がった空間に集まる人々は自然と、自分たちの手でものを生み出す力のある、地に足がついた人が多い気がする。
京都、本町。三十三観音で有名なこのエリアに、空き家となっていた長屋群を活用した、セルフビルドの面白い空間があると聞きつけた。細長い路地から敷地内らしき通路に入ると、「マッシュルームワークショップ」と書かれた看板が出迎えてくれた。この時点で、既になんだか面白い。この場所の責任者の一人である山口さんが、敷地の中心部に位置するこじんまりとしたリビングダイニングに案内してくれた。 壁に貼られた住民による掃除当番表、本棚、テーブルの横には、マーケットイベントを開催したときに作ったという、手作りの燻製機。リビ ングダイニングに繋がる形で、これまたみんなで作ったという風体の テラスがあり、そこから庭が広がっている。「アイデアさえあれば、なんでも手作りできちゃうんですよ」と、住民の一人であるレオが興奮気味に話してくれた。
路地内の350m²ほどの長屋群を改修した本町エスコーラ。住居、スタジオ、オフィスが併設された複合施設として使用されている。京都でアーティスト支援を行うHAPSと、空き家活用を後援する京都市の助成で、2014年にプロジェクトがスタートした。発起人の佐々木氏は、もともとブラジル音楽のミュージシャン。名前は、ポルトガル語で学校を意味する「エスコーラ」とした。その名の通り、目指したのは、みんなで集まり、学びあえる場作りだ。
「ここでは、住んでいる人自身がデザインする、ということを大切にしています。完璧につくりこまれたものだと、後から何も変更を加えら れません。与えられたもの・固定されたものを与えられるだけでは、人間としての学びが少ないと思うんです」と、山口さんは語る。建築の自立を掲げて、専門家には基礎の部分だけお願いし、あとはワークショップなどを通して、コミュニティメンバーで空間を作り上げた。
案内してもらい、庭に出た。エコロジーを専門に勉強するレオが、京都動物園でもらってきた動物の排泄物から作った堆肥を使って、野菜やハーブを育てている。「今後、蜂や鶏を買うのも面白そうだなと思っています」とレオ。住民がみんなで作ったというミニ茶室や、コンポストトイレもある。今後、水道や発電システムなどを見直し、内部で エネルギーの循環が完結するような仕組みづくりを実験する予定なのだそうだ。日々の運営は、コミュニティメンバーで自立的に回す。リノベーションやものづくりの専門家、研究者や編集者など、バックグランドがさまざまなメンバーが集まった。「知り合いのアーティストが数ヶ月滞在して、作品を残していく、なんてこともたまにあります。常に新しい活動が行われるのが、この場所の魅力です」と山口さん。
地域や近隣住民との繋がりも、忘れてはいない。本町は、昔ながらの長屋が密集する古い地域だ。近年高齢化も進み、空き家率も増えつ つあるなかで、最近は、新しい開発の動きもある。「私の出身であるパリはジェントリフィケーションですっかり姿を変えてしまいました。同じことが、ここでも起こらないか心配に思っています。この場所ならではのローカルなお店やマーケット、銭湯などを紹介するローカルマップなどを作って、近所のゲストハウスに配るなどの活動もできたら良いなと思っています」とレオ。この地域の良さを最大限に残すための一助になれば、と語った。
目指すは、ものをつくり、交換し、シェアして繋がるライフスタイルの 在り方だ。 資本主義経済から離れたギフトエコノミー。資本の力に頼って、建てては壊すを繰り返す都市の現状に、小さく控えめに、それでも情熱を持ってカウンターを唱える、「自分たちでつくる」DIY主義。そんな空気が充満する本町エスコーラに、勇気をもらった。