様々な文化的背景を持つ人々が共存し、「人種のるつぼ」とも言われるニューヨーク。なかでも、クイーンズの北西部にある地区、ジャクソンハイツは、167もの言語が飛び交い「米国で最も文化的に多様な地域」として知られている。
最近、渋谷の都市開発などで「Diversity(多様性)」と言う概念をよく耳にするようになった。リチャード・フロリダのクリエイティブ都市論などでキーワードとされるこの概念は、実際何を意味するのか。ニューヨークに滞在中、気になってジャクソンハイツに足を運んでみた。
予習として、アメリカを代表するドキュメンタリーの巨匠、フレデリック・ワイズマンの『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ (2015)』を観た。イスラム教学校、ユダヤ人の文化センター、LGBTコミュニティ、市議会の事務所など、ジャクソンハイツの日常が細やかに描かれる。移民や労働者階級のコミュニティをエンパワメントする組織、Make the Road New Yorkのジャクソンハイツでの活動も垣間見え、興味深い。
ジャクソンハイツ、Roosevelt Avenueでは、世界中のあらゆる料理を発見できる。
ジャクソンハイツはもともと、1916年代にマンハッタンの中高所得労働者が家族を育てる場所として開発された。大恐慌後は地価が下がり、ブロードウェイで働くエンターテイメント業界から、LGBTコミュニティがこの地域に移動し始めた。1960年代には、まず黒人系のコミュニティが住むようになり、1980年代からは、コロンビア人、メキシコ人、インド人、パキスタン人、チベット人、ネパール人など、他の移民グループが移住。ホワイト・フライトにより元住民の白人中高所得労働者の多くは転出し、当初は白人だけが住むエリアだったジャクソンハイツは、さまざまな移民グループが集まる、ニューヨークで最も移民の比率が高いエリアになった。
さまざまな言語が飛び交い、異なる地域の食材店やレストランが立ち並ぶジャクソンハイツを歩くと、その活気と熱気に圧倒される。道端で商品を売るストリートベンダーや路上マーケットも、マンハッタンやブルックリンに比べ、圧倒的に多い。
訪れてみると分かるが、ジャクソンハイツは、マンハッタンからのアクセスは決して悪くない。家賃高騰に悩まされるニューヨークにおいて、他のエリアと比べると住宅価格も安価だ。また、”都市のクリエイティビティ”を追い求める開発資本は、「多様性」が大好きときている。そのため、ジャクソンハイツもジェントリフィケーションとは、もちろん無縁ではない。ドキュメンタリー『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』では、新しい開発の波に怯える住民の姿が映し出されている。
そうなると、移民やLGBTコミュニティは、次はどこに行けば良いのだろうか。「多様性」は、楽しいだけの楽園ではない。グローバリズム、移民、マイノリティなど、アメリカが抱える問題の数々が、ジャクソンハイツには凝縮されている。とにかく、日本で「多様性」云々を語る前に、ニューヨークで(ということは、世界で、と言っても良いかもしれない)最も多様性のある地域を、まずは歩いて、体験してみると良いかもしれない。